スマートホール
デパートにある喫茶店でランダムにヘッドホンから流れてくる音楽を聴きながら、
目の前を通り過ぎる人たちをぼーっと眺めていたら、なんだか耳に流れてくる音楽が気になった。
その曲は、radioheadのある一曲。
自分のMP3プレイヤーに入れたのは、たぶん2年ぐらい前だった。
元から好きだったわけでもなく、大学時代に入ってた軽音サークルでコピーバンド数回やった程度。
それも、向こうから誘われてやったぐらいなので、別段思い入れがあるわけではない。
演奏したことある曲は、だいたい体が覚えていて、滅多に忘れることはない。
いつかの晩にyoutubeサーフィンをしていると、大学時代に演奏したことある曲が流れてきて、
懐かしさのままCDを購入し、プレイヤーに落としたのだった。
あぁ、これはradioheadだなぁと思いながら、適当に耳に合わせていたら、どうもベースの音が引っかかる。
手に持っていたボールペンをテーブルの上において、ソファーに置いてあったプレイヤーの巻き戻るボタンを押し、
気になった部分を再生し直す。
そこで、久しぶりの感覚が訪れた。
(これは、自分が理想としているベースの音だ)
僕はベースを弾くことはあるのだけども、派手なプレイはできないし、
特にプロになりたいわけでもなく、趣味の域を出ない範囲で楽しんでいただけだった。
でも、出したい音と、出したいリズムと、出したい雰囲気にはそこそここだわっていて、
高校生の頃から目指しているものはずっと変わらなかった。
radioheadをリピートして聴いてしまった理由は、"出したい理想の音"が、そこにはあったからだ。
ここで僕は不思議な浮遊感に襲われた。
(なんで、今のタイミングになって気がつくんだ?)
多分、3ヶ月に1回ぐらいは聴いていた。
アルバム通して聴いていたときもあったので、初めて聴くわけではない。
それなのに、今までまったく気づいていなかった。
むしろ、たぶん耳は通していたので、理想の音だと気づく要素は多分にあった。
この浮遊感をどうにか形に残すために、その場で考え込む。
なぜ、今まで聴いていた曲のなかに、理想の音があったのか、と。
恐らく。
最近、僕は様々な音楽を聴く機会が増えた。
それは、twitterにいるフォロワーの人に教えてもらったり、DJやってる人に曲名を聴いたり、
フジロックをはじめとするフェスに参加しているうちに、今までより幅広く、そして深く音楽体験を自分に積み重ねてきた。
その過程で、自分の中にある、時代や環境を超えて好きになるだろう音楽像、その解像度がくっきりと描き出されたのだと思う。
ビリヤード台に置かれたボウリングの球。様々なものにぶつかって小さくなっていくうちに、ビリヤードの球ぐらいの大きさになる。
ある一定のラインを超える小ささになると、台に開いている穴に、すとんと落ちる。
知らなかった音楽を数多く聴く体験により、ボウリングの球の中で眠っていた好きな音楽が残り、そうでない音楽が削られていく。
最終的に、好きな音楽が残り、いつの間にか大きさがビリヤードの球にまでになる。
そして、ある日突然、"スマートホール"をくぐり抜け、次の台に進む・・・
今までは、聴けば聴くほど、好きなものは広がっていくものだと思っていた。
だけれども、実は逆で、そうでない曲が削られていくことが繰り返され、
より好きな曲が自分に響きやすくなっていったのだと、なんとなく感じられたのだ。
好きな曲が減るということでもなく、より好きな曲を見つけやすくなったのかもしれない。
身につけるのではなく、身軽になっていくことで、澄んだ感覚がやってくる。
これは何かにつながりそうだなと、思って日記に書き留めてみました。